宇宙人にあえるかな


 むかしむかしといっても、ほんのちょっとむかしのことでした。
さかわ川の川の底に、カッパの家族がすんでいました。
お父さんカッパが、カツバ・カワタロウ。お母さんカッパが、カツバ・カワコ。
子どものカッパが、カツバ・カンタといいました。
 ほんとのむかしには、川上から川下まであわせると五百カッパ以上ものカッパがいた
そうですが、いまでは、さかわ川にすんでいるカッパは、この三びきの家族だけでした。
「カンタちゃん、お勉強の時間ですよ。」
と、お母さんカッパのカワコが、よびました。
「はい、すぐいきます。でも、おわったら宇宙人ごっこしてね。」
と、カンタは、川底のほらあなのおくからいいました。
「いいわよ。また、お母さんがエンバンになってあげるわね。」
 カンタは、六才の誕生日をとっくにすましていましたので、人間ならそろそろ小学校の
一年生でした。でも川の底には、小学校はなかったので、勉強は、お母さんに教えてもら
いました。もちろん、お父さんにも、水泳とか、魚とりとか、山のぼりのことなんかを、
教えてもらいました。
 カンタが、お母さんにいいました。
「ねえ、お母さん。宇宙人って、ほんとにいるのかな。」
「そりゃあ、いるにきまっているでしょ。」
「どうして。」
「だって、人間たちが、川の底にカッパなんかいないと思ってても、ちゃんとカッパがいる
じゃない。ね、それとおんなじよ。」
「そうかぁ、人間たちは、ぼくたちのこと、いないと思ってるのか。それと宇宙人とおんな
じか。さすがぁ。」
カンタは、お母さんの頭のいいのには、いつも感心させられます。
「ぼく、いつか宇宙人にあえるかな。」
「あえるわよ。いるんですもの。」
だから、カンタは、お母さんが大すきでした。お母さんは、いつもこうなんです。カンタが、
したいと思ってることは、いつもそうなるというのです。いますぐにはならないけれど、いつ
かきっとね。そして、いまはお母さんが、宇宙人のエンバンになって、カンタ背中にのせて、
川の中をすいすいと泳いでくれました。もちろん、お勉強のすんだあそででしたが。
 ある日のこと、お父さんカッパのカワタロウが、ふたりにいいました。
「とうとう、このさかわ川にも、すめなくなるらしい。」
 お母さんが、ききました。
「なぜ。」
「川上に、ダムができるという話をきいたんだ。つりにきた人間たちが話していた。すぐにでは
ないが、ダムができると川のながれがせきとめられて、川下のこのあたりは水がすくなくなって
底まで見えるようになるだろう。」
「ダムの川上には、みずうみができるのね。」
「そうだ。ダムの川上にすんでいる人間たちは、家も畑もみずうみの底に沈んでしまうので、ひっこ
さなければならないそうだ。」
 カンタがいいました。
「ぼくたちも、ひっこすの。」
「そういうことだ。」
「ダムでできるみずうみにはすめないの。」
「ダムの工事は何年もかかるのだよ。それに、ダムができると、よそからダムやみずうみを見物にく
る人間がくるようになるだろう。」
 カンタは、このさかわ川のあたりがお気にいりでした。カンタが生まれたのは、このさかわ川の川
の底でした。
「さかわ川をどこまでもさかのぼって行くと、カツバ仙人のたきに出るのをカンタも知ってるね。」
「うん。カツバ仙人は、お母さんのおじいさんのおじいさんなんでしょ。お母さんは、そのたきのう
らがわのほらあなで生まれたんだってね。ぼく、いつか、お母さんから聞いたことがある。」
「そのほらあなのおくに、もうひとつほらあながある。そこのかべには、いざというときどうしたら
よいかを教えてくれるカツバ仙人のきざんだかべ文字があるそうだ。どこへひっこすかをきめるまえに、
そのかべ文字を見に行こうと思うんだ。」
「そのほらあなに入る方法を知ってるのは、お母さんだけなんでしょ。」
 カンタは、つぎにお父さんがなんていうのか、わかっていました。
「そのとおりだ。だから、お父さんとお母さんとふたりで出かけなければならないんだ。こんどの旅行は、
水の中を通って行かずに、土手の道を歩いて行くことになる。大きな町も通るし、けわしいがけも、こえ
なければならない。かわいそうだが、カンタはここにのこして行く。なにもなければ、一週間で帰ってこら
れるはずだ。カンタひとりで、るすばん出来るかな。」
 お母さんカッパのカワコは、しんぱいでいっぱいの顔でカンタを見ました。でも、それが一番いい方法
だったのです。
「ぼくは、だいじょううだよ。ひとりで待ってられるよ。」
 カンタは、にこにこわらっていいました。おさかなもとれるし、おむすびもひとりでつくれる。だから、
へいきさ。
「よし、きまった。」
お父さんは、カンタを見ていいました。そして、カツバ・カワタロウとカツバ・カワコの二ひきのカッパは、
出かけたのです。
「いってらっしゃ―い。」
カッパのカンタは、さかわ川の土手の上まで出て、見おくりました。
お父さんカッパのカワタロウは、大きなリュックサックをせおっていました。お母さんカッパのカワコは、ち
いさなリュックサックをせおっていました。むかしむかしのカッパとはちがって、いまでは、背中のこうらは
取りはずして、たたんで、リュックサックにしまうことが出来るようになっていました。頭のおさらも、かみ
の毛の中にかくれるくらいにちいさくなっていましたので、土手の道を歩いて行く二ひきのカッパのすがたは、
人間とおなじに見えました。もちろん、顔につき出ていたクチバシも、すっかり引っこんで、カッパどうしでな
ければ、カッパとはわかりませんでした。
「いいこに、してるのよー・」
 お母さんカッパのカワコは、うしろをむいてカンタに手をふりました。カンタは、なんだか、目の中からなみ
だがあふれてきそうで、あわてて大きな声で、お母さんにむかっていいました。
「お母さんも、気をつけてねー。」
 お父さんカッパのカワタロウが、さいごに手を大きくふりました。
「かんたー。オオカミには、気をつけるんだぞー。」
 それきり二ひきは、走るようにはやく歩きはじめて、すぐに見えなくなってしまいました。
 カンタは、みどり色の手さげカバンをもっていました。六才の誕生日のプレゼントにお母さんからもらったのです。
お母さんはそのカバンを、おじいさんカッパからいただいたといっていました。 手さげカバンには、チャックがついていて、チャックをしめると、もう中には水がひとしずくもはいりませんでした。
 カンタは、その夜、お母さんが作っておいてくれたカレーライスを三ばいも食べ、手さげカバンをだいてねました。
手さげカバンをだいていると、お母さんといっしょにねているような気がしました。
[お母さん。ぼく、宇宙人に、きっとあうよ。」
と、カンタは、ひとりごとをいうと、すぐにねむりました。
そして、手さげカバンのかたちをしたロケットにのって、宇宙をとんでいるゆめをみました。
                                 ★つづく
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カッパのカンタ
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