宇宙人のあしあと

 カッパのカンタは、考えました。ぼくたちカッパは、もしかしたら、宇宙人かもしれないぞ。
動物ずかんにも、さかなのずかんにも、はちゅうるいのずかんにだって、カッパは出てこない。
人間ではないし、せなかにこうらがあるけれども、カメでもない。それなら、宇宙人しかない
じゃないか。
 カンタは、みどり色の手さげカバンをかかえると、両足で川底をけりました。水面にむかって泳ぎながら、カンタは考えました。
お父さんがいってた、川上にダムができるというのは、ほんとうらしい。ダムができれば、川下のこのあたりは、からからになる。それだけでもう、カッパは生きていけなくなる。だから、お父さんとお母さんは、新しい家をさがすためにカツバ仙人のほらあなまで出かけたんだ。でも、もし、カッパが宇宙人だったら、こんなにして、いつも川の底にかくれていなくてもいいではないか。どうどうと陸にあがってくらせるじゃないか。ぼくの
大すきなさかわ川の岸べに家を建てて。
その日、さかわ川の川下は、めずらしく静かでした。つりをする人もいなければ、イヌもいません。さかわ川の流れに頭を出すと、カンタは、あたりをそうっと見まわしてから、岸にあがりました。岸には、カンタお気にいりの赤岩が、おひる前の日の光に、つやつやと光っていました。カンタは、赤岩にねそべると、少しの間こうらをほしました。
「そうだ。宇宙人の足あと岩に、ぼくの足をあわせにいこう。」
 カンタは、顔をあげて、石ころだらけの川原のむこうにそびえている、がらあし山を見ていいました。まるで山オオカミのせなかのように、ちょっとごつごつのがらあし山には、むかし、宇宙人のエンバンがおりてきたときできたという、まあるいくぼみのある岩があって、「これは、宇宙人の足あとらしい」と書いた、たてふだが立っていました。
カンタは、お父さんと山のぼりの勉強をしたとき、がらあし山の頂上までのぼって、その足あと岩を見たことがありました。
「その足あとにぼくの足をあわせてみて、ぼくの足と、宇宙人の足あとが、ぴったりあったなら、すなわち、ぼくは宇宙人だ。」
 ところで、カンタが、がらあし山を見上げてそう思ったとき、カメのこのカメリイは、赤岩のちかくのかめのこ岩で、やっぱり、こうらをほしていました。カメのこ岩の岩かげが、カメリイの家だったのです。カメリイは、ひょいとこうらから首をのばして、カンタを見ました。
カメリイは、カッパをカメのしんるいだと思っていました。カッパにもカメにもこうらがあります。そりゃあ、カッパのこうらは、いまでは取りはずしができるようになりましたが、むかしはちゃんとカメのように背なかにくっついていたのです。それに、カメだって、取りはずしがきかないかわりに、頭や手足がこうらの中に入るようになっています。よく考えれば、頭と手足のほうが取りはずしがきくのとおんなじことです。だから、ずっ
とおおむかしには、カメはカッパだったのかもしれません。そして、カメがカッパだったのなら、立って歩けたろうし、もっと歩くのが、早かったでしょう。そこです。カメリイのいいたいのは。
カメリイは、考えました。カンタとなんとかして、お友だちになりたいな。そこでカメリイは、カンタが赤岩に坐って、みどり色の半ズボンとみどり色のズックをはいているすきに、カンタのみどり色の手さげカバンの中にもぐりこみました。
ぴょこたか、ぴょこたか、カンタは、がらあし山へのぼっていきました。カメのこのカメリイのはいった、手さげカバンをさげて。
ところでもうひとり、山オオカミのガンギおやぶんが、長いしたをだらりと出して、しげみのかげから、カッパのカンタを見ていました。
(あそこにカッパが歩いている。ぬらぬらしていて、あんまりうまそうじゃないな。けれど、食べてみてまずかったら、ケチャップでもかければいい。山オオカミのガンギさまは、なんでも食べるのがごじまんだ。オオカミにすききらいなどない。だから、つよいんだ。) ガンギおやぶんは、カンタを食べることにしました。そこで、カンタのあとをつけていきました。(たぶん、あのカッパは、がらあし山のてっぺんへついたら、おべんとう
を食べるだろう。おべんとうを食べれば、少しふとる。食べるなら、ちょっとでもふとってからのほうがいい。)
ぴょこたか、ぴょこたか、カッパのカンタは歩いていきました。ガンギおやぶんは長いしたをだらりと出して、カンタが、早くおべんとうを食べないかなと思いながら、カンタのあとをつけていきました。
がらあし山のてっぺんは、雲ひとつなく、とってもよいお天気でした。てっぺんの広場には、家ぐらいもある、ごつごつした岩があって、岩のそばには、クヌギの木が二、三本はえていました。カンタは、よいしょと、手さげカバンをそのクヌギの木のねもとにおきました。
木のかげに、たてふだがありました。
《これは、宇宙人の足あとらしい》
どこだろう。
たてふだの下には、はんぶん土にうずまった、みどり色の岩がありました。岩には、コケが、びっしりとはえていました。まずと、カンタは思いました。
(あのコケをはがしてみなければならないが、そのまえに、おべんとうを食べよう。)
山オオカミのガンギは、ここで、うまいぞと思いました。
(カッパがおべんとうを食べ終ったら、こんどは、おれさまが、おべんとうを食べたカッパを食べる。)
 そこでガンギおやぶんは、ごつごつ岩のくぼみにかくれました。長いしたをだらりと出して。カンタは、手さげカバンのチャックをあけて、おべんとうのおむすびのつつみを出そうと思いました。(あれ、おかしいな。おむすびが、ないぞ。たしかにみっつ、ハスのはっぱにくるんでいれといたのに。)カンタは、カバンをさかさにしてふってみました。ころころと、ハスのはが三枚と、すいとうと、なんだこれは、カメのこではないか。
「なぜ、ぼくのカバンに、カメのこが、はいってるんだ。おむすびが、なくて。」
カンタは、カメのこに聞きました。カメのこは、よわりました。カメのこのカメリイは、あんまりひとつめのおむすびがおいしかったので、ふたつめも食べちゃったんです。あんまりふたつめがおいしかったので、みっつめも食べちゃったんです。
「ひとつだけでも、残しておけばよかったのに。」
 カンタは、おこりました。だれだって、おべんとうをだまって食べられれば、おこるでしょう。
「えいゃ。こいつめ。」
 カッパのカンタは、カメリイを天までとどけと投げました。カメのこのカメリイは、天にとどくかと思ったくらい、高く高くあがってから、落ちてきました。
 こき―んと、カメリイは、クヌギ林の地面に落ちて、しばらくあおむけにころげていました。首も手も足もこうらの中にひっこめたまま。
 カンタは、おべんとうをあきらめて、早く足あと岩のコケをはがして、宇宙人の足あとに、じぶんの足をあわせようと思いました。もし、足がぴったりあって、宇宙人だったらどうしょう。
足あと岩のコケは、すぐはがれました。宇宙人の足あとは、なんとなく、カンタの足にあいそうでした。山オオカミのガンギは、もうまってはいられないと思いました。カンタは、おべんとうをまだ食べないが、ガンギおやぶんは、カンタを食べることにしました。ガンギおやぶんは、そろりそろりと、カンタにちかづきました。カンタは、むこうをむいて、宇宙人の足あとを見つめています。
「いまだ。」
 ガンギおやぶんは、とがった口を耳まであけて、カンタのせなかにとびかかりました。
 すてん、どしん。
「だれだ。こんなところに、石をおいたのは。」
 ガンギおやぶんは、カメリイにつまずいたのです。カンタは、おどろきました。
「うへえ、オオカミだ。」
 思わずカンタは、とびあがったとたんに、足あと岩の上にのっていました。
「あれ、宇宙人の足あとと、ぼくの足は、ぴったりだ。うわ―い。ぼくは、宇宙人だったんだ。」
 カメリイは、おどろきました。おそるおそるこうらから頭を出して、岩の上のカンタを見ました。
(カメのぼくも、宇宙人なのかしら。カッパとカメは、しんるいだもの。)
 山オオカミのガンギは、ころんだひょうしに、いやというほど、ひざこぞうをすりむきました。もう、カンタを食べるどころではありません。それに、カッパだと思ったら、宇宙人だといっている。宇宙人じゃ、何をされるかわからない。ガンギおやぶんは、ひとまず、帰って、ようすをみることにしました。ガンギおやぶんは、ひりひりいたむひざこぞうをなめながら、カンタとカメリイをのこして帰りました。
 カッパのカンタは、カメリイに、「ごめんね。」と、あやまりました。
「ううん。ぼくこそ、ごめんね。」と、カメリイも、カンタにあやまりました。(宇宙人だったら、あんならんぼうしなかったろう。)と、カンタは思ったのでしょう。(もし宇宙人だったら、だまっておむすび食べなかったろう。)と、カメリイも思ったのでしょう。カンタとカメリイは、そこで、おともだちになりました。
 カンタとカメリイが、それからどうしたか。
 ガンギは、まだ、カンタを食べたいとおもっているか。
 お父さんカッパとお母さんカッパは、どうしたか。
 そのお話は、またこんど………。
 



                                 ★つづく

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