カッパのカンタ3
宇宙人のほらあな

カッパのカンタは、「さかわがわ、かわしも」と書いたバス・ストップの前で、はりきって立っていました。
春風が、左手に持ったみどり色の手さげカバンをなでていきました。もちろん、シャツも着ていましたし、みどり色のズボンもはいていました。
がたん、がたびし。
「はっしゃ、オ―ライ。」
バスガイドさんがそういうと、いなかのバスは、カンタを乗せて走りだしました。
手さげカバンの中には、カメのこのカメリイと、おべんとうのおむすびが、六っつ、ハスのはっぱにくるんで入っていました。
「なんごう山のぼりぐちまで、子ども一まい。」
カンタは、ズボンのポケットからお金を出すと、バスガイドさんにわたしました。
がたん、がたびし。
「へんだわ。このお金、ぬれてるわ。」
バスガイドさんは、カンタから受けとったお金をにぎって、あの子、へんな子と、思いました。
カンタは、これから、なんごう山へのぼろうと思っていました。なんごう山には、むかし、宇宙人がすんでいたという、ほらあながあります。ほらあなに、宇宙人のたからものがあるかもしれない。
「そのたからものは、カンタとカメリイのものだ。なぜなら、カンタとカメリイは、宇宙人だものね。」
と、カメリイはいうのです。
カンタは、考えました。それが、カンタとカメリイのものではなくても、宇宙人のたからものって、どんなものか、見たいな。
がたん、がたびし。
バスは、海のそばの道を走っていました。ざぶん、ざぶんと、ときどき、波が、道の下ではねました。
ところで、山オオカミのガンギは、おなかがすいて、死にそうでした。
ガンギおやぶんは、がらあし山のてっぺんの、宇宙人の足あと岩のよこで、ぎろりとした目つきをしていました。足あと岩には、みどり色のコケが、はがされて、宇宙人の足あとが、はっきり見えました。カッパめ。
ガンギおやぶんは、よこ目で、足あとを見ました。あのとき、カメのこにつまずかなかったら、やわらかそうなカッパの子どもを食べられたのだ。
(よし、こんど出会ったときは、カメのこを先にたべてやれ。)
ガンギおやぶんは、ごつごつ岩の上にのぼってみました。
ずっと南の、海の方に、すらりととがったなんごう山が見えました。
「そうだ。なんごう山へ行ってみよう。」
(なんごう山には、宇宙人のほらあながある。カッパのやつ、このあいだ、ここで、ぼくは宇宙人だといっていた。宇宙人ならば、宇宙人のほらあなへ行くにちがいない。カッパのおやじと母親は、遠くへ出かけて、るすらしい。いまのうちだ、カッパのこぞうを食べるのは。)
「ようし、いくぞ!」
ガンギおやぶんは、ごつごつ岩をとびおりました。山オオカミせんようの近道を通って、バスよりもはやく、林の中をかけおりていきました。
がたん、がたびし。
カッパのカンタは、のんびりと、バスのまどから、海を見ていました。
カメのこのカメリイは、手さげカバンの中でねむっていました。首も手も足も、こうらの中にひっこめて、まるで、どちらがおむすびだか、わからない。バスガイドさんは、運転手さんと話しながら、カ―ラジオのスイッチをいれました。カ―ラジオは、ガイドさんのすきな音楽をやっていました。
がたん、がたびし。
バスは、ときどき、みじかいトンネルを通りました。トンネルにはいると、バスがトンネルを出るまで、カ―ラジオは、聞こえなくなりました。
「なんごう山のぼりぐちです。停車、願いま―す。」
カッパのカンタは、バスをおりると、のぼりぐちのバスストップのベンチにこしかけて、おべんとうを食べました。
「ああ、おいしい。」
「うん、とっても。」
カメのこのカメリイも、おむすびを三つ食べました。
のぼりぐちの案内板を見て、山道を少しのぼると、道は、二つにわかれていました。左へ行くと、なんごう山のてっぺん。右へまがると、宇宙人のほらあなです。
ぴょこたか、ぴょこたか。
カンタは、のん気に歌をうたいながら、スギ林の中に続く山道をのぼっていきました。
ほらあなは、アケビのつるがしげった、がけの下にありました。
《これは、むかし、宇宙人がすんでいたほらあなといわれています》
と、書いた案内板が、がけの前に立っていました。
「着いたよ。カメリイ。」
カンタは、そうっと、手さげカバンを地面におきました。チャックをあけると、中から、カメリイとかいちゅう電燈を出しました。
かいちゅう電燈を右手に持って、手さげカバンを左手にさげて、カンタは、少し頭をさげるようにして、ほらあなのおくへはいっていきました。
カメリイも、のそのそと、カンタのうしろからついていきました。
「やっぱり、きたな。カッパとカメが。」
ガンギおやぶんが、スギ林のおくから、カンタとカメリイを見ていました。
「どうせ、ほらあなは、いきどまりだ。」
赤いしたをべろりと出して、ガンギおやぶんはわらいました。まず先に、カメのこを食べよう。暗いほらあなのおくで、かいちゅう電燈の光が、チカチカと、かべにしみでた水てきにひかりました。
「なにか、あるよ。」
「石の戸だなだ。」
石の戸だなには、コケがいちめんにはえていて、みどり色にひかっていました。カンタも、カメリイも、どきどきしました。カメリイがいいました。
「きっと、たからものの戸だなだね。」
カンタが、右手を石の戸にかけていいました。
「あけるよ。」
ごろごろがああと、石でできた戸は、へんな音をたてて開きました。かいちゅう電燈の光に、なにかがピカッとひかりました。中には、おさかなの目だまみたいな白い玉がひとつと、カメリイと同じくらいの大きさのポケットラジオがありました。
カンタは、すべすべした白い玉を、ひとまずポケットにしまうと、小さなラジオをカメリイに、よく見せてあげました。
「これ、宇宙人のラジオかな。」
カメリイは、首をのばしてラジオを見ました。首をのばしたカメのこのカメリイと、ポケットラジオは、ほんとに色までそっくりでした。
「スイッチいれてみて。鳴るかな。」
カンタは、ポケットラジオのスイッチをさがして、パチリといれてみました。でも、ピイとも、ガアとも鳴りだしません。
「こわれてるんだよ。」
「なんだ。ただの、こわれたラジオか。」
カンタは、がっかりしました。
そして、ぽい! と、カメのこのカメリイと同じくらい小さなラジオを、うしろのやみのおくへすてました。
「しめた!」
やみのおくで、赤いしたをべろりと出してまっていたガンギおやぶんは、カメリイだと思って、ラジオを食べました。
「ぱくり!」
「ガンギおやぶんだ!」
カンタは、にげました。カメのこのカメリイを、おおいそぎで手さげカバンにおしこむと、入り口にむかって走りました。でも、山オオカミのガンギは、バスよりもはやい。
「まて―。」
カンタは、もう、おしまいだと思いました。ほらあなの入り口の、たれさがったアケビのつるに、足をとられてたおれたのです。
赤いしたが、ぬるりとカンタの頭にさわったようです。カンタは、目をつむりました。
「ガア、ガア、ピ、ピ、ピ、ピ、ガア、ガ、ガア、ピ、ピ、ピ、ガア、……。」
そのとき、急に、ひどい音がしました。
「助けて―。おなかが、鳴りだしたよお。ガア、ガア、ガア……。」
ガンギおやぶんのおなかの中から、へんな音がするのでした。まるで、ラジオのざつお
んみたいな。
「ガァ、ガァ、ガア、、ピ、ピ、ガア……。」
山オオカミのガンギは、カンタを食べるどころではありません。おなかをおさえて、なんごう山の山道を、バスよりもはやくかけていきました。
「あのポケットラジオ。こわれてなかったんだね。」
「そうだよ。ほらあなのそとへ出たから、鳴りだしたんだ。」
「バスが、トンネルへはいったとき、カ―ラジオが鳴らなくなって、そとへ出たとき鳴りだしたのと、同じだよね。」
「そうだよ。トンネルの中までは電波がこなかったんだ。」
カンタも、カメリイも、もっと、いろいろなことを勉強したくなりました。電波のことや、それから、宇宙のことなんか、たくさん。
「そして、宇宙研究所を作るといいね。」
と、カメリイがいいました。
ぴょこたか、ぴょこたか。
カッパのカンタは、手さげカバンをぶらさげて、山道をくだって行きました。手さげカバンの中には、もちろん、カメのこのカメリイが入っていました。お父さんとお母さんは、まだまだもどってきそうにありません。
カンタは、その夜、カメリイといっしょにねました。もちろん、お母さんにもらった手さげカバンをだいて。

                                 ★つづく


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