ルルという鹿の話 3
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 ところが そのすぐあとで
  マハーダナカの家に
  たのまれもしないのに 肉屋のおやじが
  コロッケやカツレツや ビフテキのさらと
  おまけにヒツジや ブタの切り身まで
  えへへと笑いながら 戸口において
  えへへと笑いながら 帰って行った
  すると そのあとから 洋服屋のだんなが
  やっぱり のりのきいた ターバンやシャツを
  えへへと笑いながら 戸口において
  えへへと笑いながら 帰って行った
  さあ そうなると あとからあとから
  さあ そうなると あとからあとから
  裏口は がらがら開き通しで
  パンやバナナやら ケーキやらで
  マハーダナカの家は みるまにまんいん
  いっぱいになったと いうわけだ
  そのかわりに 十六枚の宝の地図は
  すっかり いつのまにか なくなってしまった

  

「ううん。うまくだましたなあ。」
 アナンさんはかんしんして、ためいきをついた。
「これじゃ、ツミにならないなあ。」
 たしかにこれでは ツミにならない。

   あはは どうだい 思ったとおりだ
   十六人目が えへへと帰って行くと
   えへへと 十六人目が帰って行くと
   バナナやごちそうで やまもりの広間で
   広間のじゅうたんに ながながとねながら
   マハーダナカは カロンボに言った
    「ばかなやつらだ 町のご連中は
  どうだい 見ろ この羊や豚の肉
  みんな ただの紙切れをもらうために
  あはは 勝手に おいて行ったのだ。」

  それでもカロンボは だまったまんま
  大きな大きなナイフをつかって
  山とつまれた おいしそうな肉を
  みるまに きりきり 切り分けていった
  羊の赤い身が きりきり切れた
  豚のアブラ身が ぶつぶつ切れた
  そりゃあ おいしそうに ぶつぶつ切れた
  「どうれ ひとつ いただきますかな。」
  豚のシッポのプリプリするところを
  ちりりと切って 火の上にのせて
  召使いのカロンボにも ちょっぴりだけやると
  マハーダナカは もぐもぐ食べた
  三日も 食べなかったように もぐもぐ食べた

 アナンさんは、見ていてツバを飲み込んだ。おもわずごくりとのどをならした。
「すこうし、おなかがすいたなあ。」、
そう思って、お腹をなでた。それでも、がまんして、もうしばらくそこにいることにした。

 「そうだ ひとつ あの連中の 
 宝さがしを 見物に行こう。」
 マハーダナカは しばらくすると
  ぽんと立ち上がって こう言った
  「ガンジス川へ 行ってみよう。」
  「ガンジス川へ?」
  アナンさんも、おもわず立ち上がった。

 「ありもしない宝を どうやってさがすか
 ひとつ 見物に行ってみよう。」

「ありもしない宝を、どうやってさがすか。」
 たしかにこれは、おかしなことだ。
「ありもしない宝を、どうやってさがすか。ガンジス川へ行ってみよう。」

  あっは さがしている さがしてる
  マハーダナカが 岸べにつくと
  十六のたいまつが 思ったとおりに
  きらきらひかって ちかちかゆれて
  岸べのやみに動いていた

  えいや こらさ
  えいや こらさ
  だれよりもさきに 宝をみつけようと
  夜のうちにシャベルを かついで来たんだ

  あはは どうです ありましたかな
  マハーダナカは そばへ行って 
  たいまつのひとつに 声をかけた
  どうもここらでは ないようですな
  いわれたひとりは ちがうほうへ 行って
  やたらにそこらを ほじくった
  あはは あはは ありましたかな
  あまりかっこうがおかしいので
  マハーダナカは あっちへ行っては笑い
  こっちへ行っては あははと笑った

  「あはは あはは  ありましたかな。」
  あんまり マハーダナカが笑うので
  町のみんなは シャベルをおいて
  たがいに 顔を見合わせた
  「こりゃ いっぱい食わされたかな。」
  肉屋の親父は 頭をひねった
  「たしかにすこし おかしいようだ。」
  洋服屋のだんなも シャベルをおくと
  地図をすかして 考えた
  「ひとつ マハーダナカに聞いてみよう。」
  十六人全部が そうなると
  「そうだ マハーダナカに聞いてみよう。」
  よいと立ち上がって シャベルをおいた
  十六人ぜんぶが おこったように
  たいまつをふり立てて つめよったとき
  マハーダナカは おどろくどころか
  いよいよおかしそうに あははと笑った
  「あはは よおくごらんなさい。赤いバッテンは
  流れのまん中、宝は川のまん中にあるんですぜ。」

  ああ なんということだろう
  宝は 川のまん中に
  ガンジスは大きな川だ
  まるで海のように大きな川だ
  向こう岸まで 1000メートルもある
  ああ なんということだろう
  十六人はたいまつを落とすと
  へたへたと 砂の上にへたりこんだ

  どうです 行きますかな 川のまん中へ
  マハーダナカは どこでみけたのか
  カヌーを いっそうひいてきて
  ぽいと とびのって すまして言った
  「ぱしゃん それではごきげんよう。」
  長くてひらたいオールをもって
  ぱしゃんと流れの水をはねた
  カヌーはゆらりと 岸べをはなれた
  すいすい気持ちよく流れにのった

  「あはは どうぞごゆっくり ばしゃん。」
  カヌーは ゆらりと 岸べをはなれた
  すいすい夜の流れにのった
  「あはは いっぱい食わされましたねえ。」
  黒い流れの 夜の川の向こうに
  カヌーが 見えなくなるのを見て
  岸べで 肉屋のおやじが言った
  「あはは まったく そうですねえ。」
  洋服屋のだんなも 頭をふると
  あはは あははと さびしそうに笑った
  あはは あはは そうですねえ
  十六人ぜんぶが なんとなく
  きゅうに さびしそうに 笑い出した
  どうして 笑うのに さびしいんだろう
  あはは あっはと 笑いながら
  みんな 肩をすぼめて かえって行った
  さびしそうに 笑いながら 帰って行った

 たぶん みんな 自分の欲ばりが、ちょっぴりはずかしくなったんだろう。
これではマハーダナカと、どっちもどっちだ。そう、思ったにちがいない。
アナンさんは感心してみんなを見た。

  ところが ところが ところがだった
  町のみんなが かえったあとで
  カヌーに 水がもったのだ
  まっくらな夜の川のまん中で
  カヌーに 水がもったのだ
  わあい 船がしずむ たすけてくれい
  マハーダナカは すっかりあわてた
  くらいから よけいにあわてたのだ
  あわてて 立ち上がって みんなをよんだ

  カヌーで立ったら あぶないな。アナンさんが思ったときは もうおそい。

  カヌーはくるりと ほれみたことか
  ばしゃりざぶんと水の中
  たすけてくれい あばばばば
  よんでも 町のみんあは もういない
  カヌーも どこかへ 流れて行った
  たすけてくれい あばばばば
  手足をばたばた 水を飲んでむせた
  泳げないんだ マハーダナカは
  青っぱなたらして おぼれだした

  すると そのとき 
  すると そのとき
  すると そのとき 流れの中に
  木の枝が 二本 並んで立った
  ふわりとうくように 並んで立った
  ぐんぐん マハーダナカに 向かってきた

「ルル鹿だ。」
 アナンさんは、おもわずとび上がった。
「ルル鹿が、マハーダナカをたすけたんだ。」 
 アナンさんは、感心して首をふった。
「けものが人間をたすけるなんて、人間をけものがたすけるなんて、これはまちがったことかもしれない。」
 そのときアナンさんの耳のおくで、だれかがそんなことをつぶやいた。 
「けものが 人間をたすけるなんて、いったいどんなものだろうか。」