つづく
 3.サバンナのおきて 

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サバンナの黄色い風2 . ナウマン象のどうくつ
 雨あがりのサバンナに、すずしい風がふいていました。フエアカシヤが、ひゅーひゅーと風になっていました。トムソンガゼルの子どもが、そんな音が気になるのか、よこっとびにしげみのおくへはねて行きました。
 パクは、草原をとぶようにならんでかけながら、弟ライオンのヤンにききました。
「そんなにおおぜい白人がきたのかい」
 ヤンは、ちらっとトムソンガゼルのほうを見ながらいいました。
「白人は3人だけさ。でも、カオマイ族が30人もついてきたんだ」
「なにをしにきたんだ。こんなおく地まで」
「みどり色のひかる石をさがしにきたんだ」
 その石がアカハナ谷のムカシゾウの洞窟にあることは、パクもヤンもしっていました。「あれはエメラルドなんだってさ。きっとアカハナのだれかが町にうりに行ったんだ」
 アカハナ族のしゅう長は、ニグローダの木かげで考えこんでいました。エメラルドの原石ひと袋につき500ドル出すと、白人はいうのです。500ドルが10で5000ドルだ。5000ドルあれば?と、しゅう長は考えました。わかい妻にも、赤ん坊にも、一族みんなにも、どれだけのことがしてやれるか。

 アカハナ族の部落から川ひとつへだてたナツメヤシの木かげに白人のテントがありました。やりをかかえたカオマイ族はテントのまわりの草むらに、たしかに30人かくれていました。テントの中で白人たちがなにかしきりと話していました。とびこんでおどかしてやろうかと、ヤンがいいましたが、パクはむだだと思いました。白人は、洞窟へ出かけるまえに、ライオン狩りをするだけでしょう。
 ナツメヤシのこずえがさわさわとなりました。サバンナに夜がくるのです。カオマイ族が、がさごそ草むらで夜のしたくをはじめました。パクも、のびをしてヤンにいいました。「アカハナ谷へ行ってみよう」
 夜の闇が谷間をつつんでいました。イボイノシシの子が、谷の入口でうろうろしていました。パクは、たべたそうなヤンをせかせて、星あかりのけもの道をいそぎました。
 洞窟はきりたったがけの下にありました。洞窟のすぐ下を、ごうごうと音をたててパロンダ川がながれていました。雨のきせつがもっとすぎると、谷川は水かさをまして洞窟の中まで水びたしになりました。そのころには、このあたりで毎年何十ぴきものイボイノシシの子がおぼれ死ぬのを、ヤンもしっていました。
 ここをムカシゾウの洞窟とよぶのは、何万年も前にこの洞窟がゾウの墓場だったといういいつたえがあるからです。しかし、洞窟までの道は、けわしいがけとアカハナ族の見はりにさえぎられて、サルかライオンででもなければたどりつけない場所でした。それに谷ひとつむこうには、おそろしいアフリカオオカミの巣穴がありました。アフリカオオカミは、ずるがしこく、いつもむれで行動していました。

「洞窟の中からあかりが見えるよ」
「しずかに。人間がいるんだ」
 何者だろう、こんな場所に。パクは、用心ぶかくおくをうかがいました。カンテラが岩の上で、ちろちろともえています。ムカシゾウの洞窟のかべが、みどり色にかがやいていました。たいらな岩のかげにわかい男が、腹に毛布をかけてねむっていました。枕もとにリュックサックがひとつ、拡大鏡とスコップが一本あるだけでした。猟銃はないようです。アカハナでも、カオマイでも、白人でも、マサイでもなさそうでした。顔も手も、首すじも白いというより茶色っぽい黄色でした。かべぎわがほられていましたが、エメラルドをさがしたふうでもありません。
 そのとき、だいすきなカルンのよび声がきこえました。谷間にこだまするカルンの声に、イボイノシシが、あわててにげていきました。
「ここだよ。ぼくは」
 パクは、ひと声たかくカルンをよびました。
「やっぱり、ここだったのね。しゅう長の赤ちゃんがさらわれたのよ」
 カルンの背後のくら闇にアカハナの女が、なみだをいっぱいにしてたっていました。女は、アカハナ語でなにかいい、りょう手をあわせました。もちろん、パクにアカハナ語はわからない。
「ぼくは、わかるよ。だから、ぼくも手つだう」
 こういったのは、洞窟の中でねていたわかい男でしたから、パクもヤンもおどろきました。カルンも、けげんな顔でパクとわかい男を見くらべました。
「赤んぼうを誘拐して、エメラルドをよこせなんていうやり方は、だんじてゆるせない。だいいち、ここには貴重なナウマンゾウの化石がある。そうなんだ、ムカシゾウというのは、二万年前にこの地球上に生きていたナウマンゾウのことなんだ。ぼくは、日本にいたというナウマンゾウが、アフリカ大陸にもいたということをつきとめたくて、とおい日本からやってきたんだ。ここにある化石がほんとうにナウマンゾウかどうかは、まだわからない。でも、この洞窟をそんな白人たちの手でよごさせるわけにはいかない。オオヤマ・ケイタの黄色い肌にかけて、ナウマンゾウの洞窟をまもってみせる」
 パクは、人間にもライオンのように気もちのよい男がいるんだなと思いました。だからパクは、黄金色のたてがみをふるいたたせていいました。
「カルンは、この人たちとしゅう長のところへ。ぼくとヤンは、赤ちゃんをたすける。そして、くれぐれもアフリカオオカミのむれに気づかれることのないように」
 だが、30人のカオマイ族も、まぬけではありません。白人も、ライフル銃をかまえてテントの前にいました。テントの中から、赤んぼうのなき声がきこえます。パクは、ヤンにむこうの草むらでさわぎたてるようにといいました。白人たちが気をとられたすきに、パクは、テントにとびこむつもりです。

 ヤンの声が、すぐに川上の草むらからひびきました。しげみの中でねむっていたカンムリヅルが、いっせいに夜の空にとびたちました。カオマイのやり先が、声の方角にたしかにむきました。
 パクは、テントにむかって草むらを一とびで6メートルもとびました。テントの前にいた白人のひとりは、パクの一げきで気をうしない。ひとりは、銃をすててにげていきました。パクは、テントにはいりました。赤んぼうは、おくの木箱の上にねかされていました。パクを見て、赤ん坊が笑いました。だが、木箱のかげに白人のさいごのひとりが、ライフル銃をかまえていたのです。
 白人はふるえていました。だから、パクがとびかかっても、パクは死にはしないでしょう。でも、白人といっしょに赤ちゃんにけがをさせてしまいます。白人はパクのこころがわかったのか、銃身を赤んぼうの胸にずらしました。そして、ひき金にかけた指に力をこめました。
「まつんだ!赤んぼうを、わたしによこすんだ」
 あのわか者でした。胸にひびくような白人語で、わか者は言いました。白人は、銃をおきました。
 テントの外は、草原に朝日がのぼるところでした。朝日をあびてパクのたてがみが、まるでエメラルドのようにかがやいて見えました。