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サバンナの黄色い風3 . サバンナのおきて
 パクは、ヤンといっしょに、よくこえたレイヨウのおすをおって草原をかけていました。パクもヤンも、きのうからなにもたべていなかったのです。しかし、レイヨウだって、ライオンにたべられたくはありません。たけの高い草むらをトビウサギよりもみごとにとびながらにげていきました。
「もうむりだ。ヤン、ひとやすみしようよ」
 いくらふとったレイヨウでも、レイヨウはレイヨウです。さすがのパクも、くたくたでした。
「パク、見て。むこうの川のそばにいる人、ムカシゾウの洞窟であった男のひとじゃないかな。ナウマンゾウの化石をさがしてた、ケイタさんだよ」
「しずかに、ヤン。なにかがおこってる」
 パクは、こういうときには、すぐに行動をおこします。もうレイヨウはあとまわし、くたくたもわすれて、たけの高い草をぬうようにしてすすみます。もちろん、かさりとも草をならしません。レイヨウをつかまえようとしたときも、こういうふうにすればよかったんだなと、あとにつづきながらヤンは思いました。ジリスの子が、ヤンと顔をあわせて、あわてて巣穴にぎゃくもどりしました。
「はぐれライオンだ。はぐれがあのひとをおそったんだ」
 ケイタは、サハリシャツの胸のあたりをひきさかれて血がにじんでいました。銃も、ナイフももっていません。はぐれは、それでもなにが気になるのか、7メートルもはなれてすきをうかがっています。サバンナの太陽が、日本からきたという青年とはぐれライオンのばさばさのたてがみに、ぎらぎらとてっていました。
 パクは、あまりにもしぜんにたっている青年を見て、しばらくはわってはいるのを忘れました。しかし、どう考えてもす手の人間が、ライオンにかなうわけがありません。パクは、このわか者がすきでした。それに、この前はパクがこのひとにたすけられたのでした。 黄金色のたてがみをなびかせて、パクは、ひととびでケイタとはぐれの間にわってはいりました。少年ライオンといっても、王さまライオンのパクです。はぐれなんかに負けやしません。じりじりとパクがみがまえて近づくと、はぐれは、まずいやつがきたものだという顔で、しり尾をぶるんぶるんとふりました。じゃまだ。ひっこめ。という合図です。
 パクは、とびました。がつんと、はぐれのたてがみにパクの前足の一げきが命中して、砂だらけの毛が草の上にまいました。はぐれもまけてはいません。よろけたからだをたてなおすと、砂まみれの指の先からナイフのようなつめをのばして、クロサイのようにもうぜんとぶつかって行きました。パクも、ひくいうなり声をあげながら、銀色のふさ毛をひるがえし、牙をむいてとっしんして行きました。
 パクとはぐれは、なんどもなんども草をふみしだいてわか者のまん前でぶつかりあいました。
 いつかパクの黄色い背なかの毛が血にまみれて、ヤンには、パクがたおれるかと思われました。
 けれども、「ぐわあ!」というほえ声とも悲鳴ともつかない声がしたかと思うと、しりもちをついたケイタの前にパクが前足でしっかりと草地をおさえてたち、パクのたつすぐ前の草の上には、はぐれライオンが、ごろりと腹を見せてよこたわっていました。
 はぐれの腹は血と砂でよごれていました。はぐれのあらい息づかいといっしょに腹の皮がひくひくと動きました。地面につけた肩のあたりから、いやに赤い血がながれていました。しかし、はぐれは、死んだわけではないのです。降参した印として、さあどうにでもしてくれと、腹を敵にむけていたのでした。
「さりたまえ。だが、二どと人間をおそうなよ」
 パクがいうと、はぐれは、しり尾をたれて草むらのかげにきえました。
「ありがとう。パク」
と、ケイタは汗をふきながらいいました。
「それから、こんにちは、ヤン」
と、ケイタは、ヤンにむかっていいました。
「むこうに、いいものがあるんだよ」
 ケイタは川岸にもどると、ながれにつけておいた魚篭をひきあげて、中からアフリカゴイを6ぴきも出しました。パクもヤンも、魚をたべるなんてはじめてでした。目の下30センチもある大きなアフリカゴイを3ひきも食べたので、ヤンもおなかがいっぱいになりました。
「アフリカゴイが、こんなにおいしい物だなんてしらなかったよね」
「トビウサギよりも油があって、おいしい肉だ」
「ナウマンゾウの肉も、おいしかったのかなあ」
「ナウマンゾウのいた2万年前には、どんな魚がいたのかな」
 ケイタは、パクとヤンの話すのがわかるのか、笑いながら2頭の話をきいていました。そして、じぶんも魚篭から小ぶりのアフリカゴイを出すと、腰の皮サックにさしていたナイフで、おさし身のようにコイの肉をきりとって口にいれました。
 パクは、ケイタがきようにナイフをつかって魚をたべるのを、しばらくかんしんして見ていましたが、ふと、へんだなと思いました。なぜこのわか者は、はぐれライオンと戦うときにナイフをつかわなかったのだろうか。
「はぐれを、殺したくなかったんだ」
 まさかと、パクは思いました。
「ほんとうさ。たべるためじゃなければ、相手を殺さないというサバンナのおきてにしたがおうと思ったのさ」
 パクは、この青年をますますすきになりました。
「だいすきなカルンとおなじぐらいにかい」と、ヤンがききたそうな顔をしました。そのとき、アカハナ谷の方からめすライオンのほえ声がきこえました。